翻訳で最も重要なのは、日本語の力~翻訳者インタビュー Vol.4~フリーランス翻訳者E.S様

E.S様

現在どのような翻訳に携わっていますか?

英語から日本語およびイタリア語から日本語の翻訳をしています。

医療・医学(取説、プレスリリース、プロトコル、診断書、論文)、会計(財務諸表、IR)、精密機械(取説、データシート)、自動車関連(プレスリリース、部品製造管理マニュアル、イーサネットスイッチテストプラン、ディーラー向け通知)、ソフトウェア(実験室管理システム、車載電子制御システム)、契約書、法律(法文、官報、判決文、通達書、和解文書)、家具(プレスリリース、カタログ)、ファッション(プレスリリース、ウェブサイト、キャッチコピー、プライバシーポリシー)、各種記事(経済、自動車レース、ファッション)、観光(宿泊サイトウェブサイト、eラーニング、観光サイト観光地紹介文)、映像翻訳(テレビ番組、映画、メーカーの顧客向けビデオ)などの分野の翻訳を行っています。

翻訳者として働き始めたきっかけは何ですか?

若い頃から翻訳に興味はありましたが、フリーランスとして仕事を始めるきっかけになったのは、出版翻訳のオーディションやコンテストを受け始めたことです。

当時の勤務先は副業を認めていたため、会社員の傍ら出版翻訳を副業にできないかと考えたからです。しかし、副業どころか、1冊丸々翻訳させてもらえるようになるまで何年もかかりました。

その間、勤め先の業績がどんどん悪化していき、年齢的に転職も厳しいと考え、少しずつ翻訳会社に登録して、フリーランスに向けて準備を始めました。そして、会社の規模縮小を機に退職し、現在に至ります。

翻訳者になるためにどのような学習をしましたか?

翻訳者になるための学習という意識は当時ありませんでしたが、出版翻訳を目指していた頃にいただいたリーディング(原書を読んで、内容を12~15枚程度にまとめる)の仕事が非常に役立っていると思います。

様々な分野の多種多様な文章に触れ、理解し、それを自分の言葉でまとめることは対象言語の理解力の向上につながりました。

また、それ以上に、どのような日本語にすれば相手に伝わるかを意識するようになり、自分の文章を客観的に見ることができるようになったことが最大の恩恵だと思います。

翻訳の仕事のやりがいは何ですか?

日本語以外で書かれた文章があり、それを日本語で把握したいという人がいて、その要求に自分が応えられるということです。

また、より深く物事を知ることができることも、やりがいとは少し違うかもしれませんが、翻訳をしたいという意欲につながっています。読書をシュノーケリングとするならば、翻訳はダイビングだと思います。どんな海でもそこには未知の世界が広がっていて、潜る度に新たな発見があります。

出版翻訳でも、実務翻訳でも、その醍醐味は変わりません。これは、自分でも意外な発見でした。翻訳という作業そのものが好きなのだと思います。

翻訳の仕事で大変なことは何ですか?

仕事の8割がCATツール(翻訳支援ツール)を使用するものですが、翻訳会社や言語によって使用しない場合もあります。ツールなしで大量の翻訳を行う場合、訳語や文章の統一に苦労します。

通常、全体を読んでから翻訳に取り掛かるというような時間的余裕はなく、大抵、頭からどんどん訳していきます。ですから、どの用語や文章が繰り返されるか、訳してみないとわかりません。

前に出てきた、と思った時点で、戻って確認するという繰り返しです。何でもないようですが、これが、結構疲弊します。その点、CATツールは、完璧ではありませんが、繰り返しを一致度で示してくれるので、作業の効率化が図れるのです。

今後のキャリアビジョンややりたい仕事について教えてください

これまで同様、情報を必要としている人たちに向け、正確さとスピードを第一に、質の高い、読みやすくわかりやすい翻訳を提供していきたいと思います。

時間と体力の許す限り、声を掛けていただいた仕事はできるだけ引き受けたいと思っています。翻訳会社からも、また、エンドユーザーさんからも次も是非にと言ってもらえるような翻訳を心掛けたいと思います。

どんな海でもそこは私にとって未知の世界なので、嬉々として飛び込むつもりです。

翻訳者を目指す方にアドバイスをお願いします

対象言語の基礎的な力はもちろん必要ですが、翻訳で最も重要なのは、日本語の力だと私は思います。同じ単語でも、分野や状況によって訳し方は異なってきます。その適切な選択を可能にするのが日本語の力に外なりません。

日本語の力とは総合的なもので、これが日本語の力だと簡単に示すことは難しいのですが、翻訳で重要なのは、「適切な語彙を選択し、その分野にふさわしい文体でわかりやすく示す」ことだと思います。そういった力を養えるご自身に合った方法を見つけて頑張ってください。